潮出版社
 
 
潮2020年1月号
月刊「潮」 潮2020年1月号
発刊日
2019年12月5日
価格
660 (本体 600円)

目次

【特別企画】2020 日本と世界の羅針盤

【対談】ブレない歴史観の磨き方 安部龍太郎vs佐藤 優
平成から令和へ さらに増す公明党の存在感  御厨 貴
【対談】人口減少社会はイノベーションの宝の山 吉川 洋vs田原総一朗
二〇二〇年 世界と日本の景気を読む  熊谷亮丸

 


【特集】すばらしき、わが人生!

【ルポ】全盲のイーちゃんが「幸せ」を教えてくれた  前原政之
【ルポ】梅干しとキムチのある老人ホーム  高橋幸春
【アスリート列伝】榎木和貴 創価大学の〝襷〟が箱根路を駆け抜ける。
〝けんちゃん〟、七十八歳で映画館をつくる(前編)片山 修

 


【特集】人生100年時代のかたち

【ルポ】介護を「快護」にするため  奥野修司
【ルポ】いのちと向き合う現場を訪ねて(中)  小山朝子
【ルポ】働く人に幸せを介護業界の風雲児  出町 譲

 


『こども六法』でいじめを許さない社会へ。
山崎聡一郎


【著者インタビュー拡大版】
人間って何なんやろ、自分は何なんやろうって、考えていた 

又吉直樹


連載ドキュメンタリー企画109
民衆こそ王者 池田大作とその時代
未来に生きる人篇(12)


【対談】映像のない「言葉の力」に魅せられて 

 原田ひ香vs佐藤満春


〝視力〟をあきらめないで!「ガボール・アイ」の挑戦  

平松 類

実は便利な「キャッシュレス」を使ってみませんか?  

福田好郎


第3回 読者手記、発表!
テーマ「忘れられない贈り物」


★好評連載★
【シリーズ】鎌田實の輝く人生の「終い方」11
医師として 患者として  鎌田 實

シルクロード「仏の道」紀行  第二部 天山南路 

第四回 彫刻都市「交河故城」  安部龍太郎

世界への扉40
権力と権威を分割することの意味  三浦瑠麗

寄せ場のグルメ6
「東京の台所」魚河岸と築地市場(上)  中原一歩

名越康文のシネマ幸福論16
人は、変われる  名越康文

大相撲の不思議49
弓取式  内館牧子

シルバー・アンダーグラウンド ~置き去りにされる高齢者たち~15
戦火と偏見 沖縄でハンセン病と闘った人々③  石井光太


◉連載小説◉

蒼天有眼 雲ぞ見ゆ11 山本一力

芦東山13 熊谷達也

覇王の神殿16 伊東 潤


読者手記大募集!
(第6回 テーマ 私の宝物)


ushio情報box
暮らしの相談室 貯蓄編(夫亡きあとも、ずっと自宅に住み続けたい)
[新連載]サトミツの知っててよかった! お掃除豆知識
[新連載]シニアのためのスマホ講座(スマホによるキャッシュレス決済)
悠々在宅介護術【身だしなみ編①】(「洗顔、歯磨き」をお手伝いしたい!)
[新連載]家計にやさしいエコライフ(一年間の水道光熱費を知る)
[新連載]快適生活 ワンポイントアドバイス(風邪に備える)
[新連載]災害列島で生き抜く~本当に必要な防災用品とは?(水の備蓄)
[新連載]美と健康のための新習慣(座ってできる! お腹ポッコリ予防)
ナンバープレイス
おいしく食べて健康づくり(脳の老化予防)
シネマ&DVD 
ステージ&ミュージアム
短歌

俳句

時事川柳
最近気になるMONO(進化した付箋)


ずいひつ「波音」
こころを聴く49 市とは。中西 進
ウザいおっさん。角幡唯介
文字の人と、音の人と。木村綾子
台湾に見た本物の三国聖地。上永哲矢
日中友好「金の橋」永遠に。片野 勧


カラーグラビア
PEOPLE2020
世界のネコたち(ジャマイカ)
〝ティー・エイジ流〟カフェ散歩
(墨田の人と人を繋ぐ「街のハブ」に)
シルクロード「仏の道」紀行(交河故城)
世界紀行(スイス・ツェルマット)


潮ライブラリー/新聞クリッパー/今月のちょっといい話
/クロスワード・パズル/囲碁・将棋/読者の声/編集を終えて

注目記事

●特別企画● 2020 日本と世界の羅針盤
【対談】「ブレない歴史観の磨き方。(前編)」

安部龍太郎(作家)vs佐藤優(作家・元外務省主任分析官)他3本

 新年号の特別企画は「2020 日本と世界の羅針盤」というテーマで、激動化する世界情勢の中で日本は、そして私たちはどう進んでいくべきかを、各界の識者に論じていただいた。
 巻頭では、直木賞作家の安部龍太郎氏と、元外務省主任分析官の佐藤優氏による対談を掲載。「ブレない歴史観の磨き方」と題して、歴史を教養として身につける大切さを、国際感覚が豊かなお二人の経験に基づきながら語り合っていただいた。
 安部氏は、豊臣秀吉の朝鮮出兵について韓国の各地を取材した際、現地の人から「韓国での秀吉の所業について、知っているか」と、行く先々で問われたという。それに対し佐藤氏は、「朝鮮出兵で活躍した加藤清正も小西行長も、日本では有名な戦国武将だが、韓国においては悪党の代名詞となっている」と指摘。ことほどさように、日本の歴史と世界の歴史は、密接に関わっているのだが、日本の高校では、世界史と日本史が別の科目に分離され、どちらか一方の視点しか学んでいない学生もいる。「総合的な歴史観」の欠如が、自国の歴史を語れない日本人を作り出しているとの指摘は耳が痛い。
 その上で安部氏は歴史小説家として、以下の3点を重視しているという。それは、1知的な情報量、2日本史と向き合う体験、3その上に生まれる発想力、の三本柱である。知識はもちろんだが、歴史と格闘した経験と、それに裏打ちされた発想が生まれてこなければ、歴史小説は書けないし、テストの点数ばかりを考えていれば、歴史を自分の問題として受け止められないと警鐘を鳴らす。
 それに呼応して佐藤氏は、日本人は受験勉強的に1を重視するが、2と3が欠けており、歴史がもたらす教訓を咀嚼したうえで格闘した経験がないから、現代の地政学的変化に目をやりながら考えを巡らせることができないのだと言及する。
 日本を代表する二人の碩学の丁々発止の語らい。ぜひ知的スリルを感じながら、楽しんでいただきたい。

 


●特集● すばらしき、わが人生!
【ルポ】「全盲のイーちゃんが『幸せ』を教えてくれた。」前原政之(フリーライター)
【アスリート列伝】「榎木和貴――創価大学の“襷”が箱根路を駆け抜ける。」サカイマサト(スポーツライター)
他2本
 映画「イーちゃんの白い杖」は、全盲の姉「イーちゃん」と重度障がいを持つ弟「息吹さん」、そして二人を育ててきた両親の、20年間にわたる家族の絆を描いた長編ドキュメンタリー。1月号の特集「すばらしき、わが人生!」では、監督の橋本真理子さん(テレビ静岡情報ニュース部長)と、映画の主人公である「イーちゃん」こと横田唯織さんにご登場いただいた。
 橋本さんとイーちゃんの出会いは1998年。テレビの取材で訪れた盲学校で、目が見えなくてもこんなに明るくて、誰にでも話しかける8歳の女の子に、がぜん興味をもったという。さらにイーちゃんのお母さんの「下の子が大変な障がいをもっていたので、イーちゃんの目が見えないことなんて、屁みたいなもんだ」という一言にも衝撃を受ける。弟の息吹さんも目が見えず、さらに自力では歩くことも食べることも、トイレに行くこともできないのだ。
 互いの顔を見たことがない姉弟だが、声と手で互いの存在を確かめあう。そして姉が一方的に弟を支えるだけの関係でもない。むしろイーちゃんがいじめや人間関係で苦しんだ時には、弟は自分の生命をかけて姉を励ましてきた。そんなイーちゃん一家を、20年にわたって丁寧に取材してきたドキュメンタリーは、涙あり笑いありの作品として多くの視聴者の感動を呼び、いくつもの賞に輝いた。
 今回のルポでは、映画という形にして公開に踏み切った理由や、新たな幸せをつかんだイーちゃんの現在なども余すことなく取材。彼女の生命の輝きを、全身で浴びてほしい。
 次に紹介するのは「アスリート列伝」。2019年10月26日に行われた箱根駅伝予選会で、創価大学は5位となり、3年ぶり3度目の本選出場を決めた。大躍進の原動力になったのが、2月に就任した榎木和貴監督だ。
 監督自身、名門・中央大学時代には箱根駅伝で4年連続区間賞に輝くなど、学生陸上界のスター選手として名を馳せた。しかし卒業後、実業団の旭化成陸上部に入ると、怪我やプレッシャーに苦しみ、大きな挫折を味わう。選手引退後は実業団などで指導者の道に進むが、あるとき創価大学駅伝部から監督としての招聘を受けた。一度は丁重に断るも、再びオファーを受け、視察に訪れてみると、そこで見た練習環境のすばらしさ、また大学の熱意や協力体制に感動し、監督受諾を決意。ここから同大学駅伝部の反転攻勢が始まった。
 苦戦が続いていた駅伝部が一気に花開いたのはなぜか。その秘密と、監督の指導術や今後の展望なども追いかけた本稿を読めば、新年1月2日、3日の箱根駅伝が、さらに味わい深くなること間違いなし!

 


●著者インタビュー拡大版●
「人間って何なんやろ、自分は何なんやろうって、考えていた。」

又吉直樹(作家・お笑い芸人)

 お笑い芸人で作家でもある又吉直樹さんが、初の長編小説『人間』を上梓した。主人公は、イラストやエッセーを生業としている38歳の男。「青春が終わった後の日常」を描いた作品だ。又吉さんが20代の頃に抱えていた葛藤を描いた芥川賞受賞作『火花』と、前作『劇場』が青春の物語だとすると、『人間』はその後の物語ということになる。
 今月号では、著者インタビュー拡大版として、最新作『人間』について又吉直樹さんご本人に、その読みどころや作品への思いを伺った。
 本書は「毎日新聞」に連載されたものを一冊にまとめたもの。連載時、毎日1000字を書き上げては、その都度編集部に送っていたという。ふつうはある程度書き溜めたものを送稿するのだが、作家活動だけでなく、テレビに舞台と超多忙な又吉さんにとって、リスクは感じなかったのかと問うてみた。すると又吉さんは、「締め切り直前までいろんな人の言葉に耳を傾けたり、歩いて風景を見たりしながら、何か新しい発見や気づきはないだろうかと、ギリギリまで粘りたかったから」と答えてくれた。だからリアリティと疾走感があふれる文体に仕上がったのだと納得した。
又吉さんは、「人間社会の通常の感覚では〝失格〟となる、境界線上にいるような人物に興味があるんです」と語る。だからこそ、売れない芸人時代の自身の経験と重ね合わせるように、日の当たらないほうへと視点が向けられ、コントや小説の世界観へと昇華していったのだろう。
 本誌初登場となる又吉直樹さんの濃密なインタビューを、ぜひご堪能下さい。

 


●特集● 人生100年時代のかたち
【ルポ】「介護を『快護』にするために。」奥野修司(ノンフィクション作家)
【ルポ】「いのちと向き合う現場を訪ねて。(中)」小山朝子(介護ジャーナリスト)
他1本

 ルポ「介護を『快護』にするために」では、ノンフィクション作家の奥野修司氏が、若年性認知症となった夫を支える小田尚代さんを取材。尚代さんは、57歳でアルツハイマー型認知症と診断された夫・修一さんの介護に加え、一家の収入を得るためのパート勤務など、一見すると「快護」とはかけ離れた日々を送っているように思える。さらに夫妻には4人の娘さんもいる。
 認知症と診断された当初、興奮すると大声を出したりモノにあたるなど、人が変わったように暴力的になる修一さんを前に、「本当の夫はどれなのか」と不安な気持ちに襲われたそうだ。二年後には言葉も発することができなくなった。
 しかし、壮絶な介護生活を続けるうちに、誰よりも戸惑い、不安であるのは夫だということに気づく。「自分が一家の主なのに、言いたいことも言えへん。そんな歯がゆさは、相手の身に置き換えてみたらわかります。そんなら、気持ちよくせんと、私もこの人も、なんぼでもしんどくなります。お互いに気持ち良くなるように、この人の身になって介護しようと思ったんです」という尚代さんの述懐は、ある意味での凄みを感じる。
 また本稿では、最近よく耳にする「成年後見制度」の落とし穴についても、尚代さんの体験をもとに赤裸々に説明されており、ぜひとも知っておきたい情報だ。ともあれ認知症の人が100人いたら、介護も100通りあるということ。だからこそ、個々の当事者が語る声に、私たちは真摯に耳を傾けるしかないと奥野氏は言う。
 もう一点、介護ジャーナリスト・小山朝子氏のルポ「いのちと向き合う現場を訪ねて」では、前号に引き続き、在宅医療に力を尽くす人々の姿を追った。東京都立川市や神奈川県横須賀市の取り組みに加え、福井県おおい町名田庄地区を取材。名田庄地区唯一の診療所で、地域医療を一人で担い続けている中村伸一医師は、高齢化が進んだこの地域だからこそ、保険・医療・福祉の連携を先取りすることができたと語る。何より驚くのは、中村医師が患者さんだけでなく、その家族関係まで知り尽くしている点だ。だから「延命治療をするかしないかの話し合いも、日常から十分なコミュニケーションがなされていれば円滑に行うことができるし、逆に言えばこれまでの信頼関係がないと、最期の段階で介入してもうまくいかないこともある」との言葉には説得力がある。患者や家族の想いを見ようと地道に努力してきた中村医師の姿を通して筆者は、「自分にとって最後まで大切にしたいものはなにか。それを見極めることから逝きの準備を始めてみようと思う」と本稿を締めくくっている。

定期購読
月刊「潮」の定期購読をご希望の方はこちらからお申し込みいただけます。