潮出版社
 
 
潮2019年11月号
月刊「潮」 潮2019年11月号
発刊日
2019年10月5日
価格
660 (本体 600円)

目次

【特別企画】「不寛容の時代」を超えて。

嫌韓報道に潜む「ふつうの人々」の邪悪な衝動。 内田 樹

日本社会を分断する「自己責任論」の罠。 橋本健二

「大人の発達障害」を〝個性〟と捉える社会へ。 岩波 明

「児童養護」後の若者たちはどこへ向かうのか。 井上 仁

グローバル化が生んだ過剰な「愛国心」。 将基面貴巳

「怒り」をコントロールし、豊かな人生を。 戸田久実

【ルポ】認知症とともに働き、生きる。(下) 奥野修司

 


【巻頭企画】

ポピュリズム政治が

もたらす危機。 三浦瑠麗


【特別インタビュー】
ビル・エモットが語る日本再興のカギ。
多賀幹子


【連載】ニッポンの問題点23
それでも「知る」努力をやめてはいけない――日韓関係の現在地。

浅羽祐樹vs田原総一朗


【鼎談】後篇
「豊饒なる孤独」を語る。中西 進vs岸 惠子vs磯田道史


連載ドキュメンタリー企画
民衆こそ王者――池田大作とその時代
未来に生きる人篇 第107回


【人間探訪】
水木一郎  
デビュー半世紀を越えても〝青春〟真っ只中の「アニソンの帝王」。


【にんげんドキュメント】
塙 宣之  
頭の中身を吐き出したかった。


【インタビュー】
世界中に根強く残る女性たちの葛藤を描き続けたい。
アッシュ・メイフェア


【ルポ】
外国人技能実習生送り出し国から見た「負」の側面。(下)
安田峰俊


第1回 読者手記、発表!
テーマ「夏の思い出」


【シリーズ】鎌田實の輝く人生の「終い方」9
魂の存在を信じるか。 鎌田 實


【ルポ】エディブル・スクールヤード
食といのちを見つめる学び舎を訪ねて。 山口由美


【好評連載】
シルクロード「仏の道」紀行 第二部 天山南路
第二回 三蔵法師の苦難  安部龍太郎


シルバー・アンダーグラウンド ~置き去りにされる高齢者たち~13
戦火と偏見  沖縄でハンセン病と闘った人々。① 石井光太


師弟誓願の大道 小説『新・人間革命』を読む12
「人間のための宗教」を取り戻すために。 佐藤 優


寄せ場のグルメ4   ジンギスカン・三里塚闘争・御料牧場。(上)

中原一歩


名越康文のシネマ幸福論14  「幸運」のつくり方。 

名越康文


エッセイ35   小さな幸せ探検隊。 

森沢明夫


大相撲の不思議47 幟。
内館牧子


【連載小説】
蒼天有眼 雲ぞ見ゆ9 山本一力

芦東山11 熊谷達也

覇王の神殿14   伊東 潤


読者手記大募集! (第4回 テーマ 運命の出会い)


ushio情報box
暮らしの相談室・保険編(医療保険の見直しをする際の注意点は?)/初心者のためのスマホ活用術(レシピアプリで献立のお悩み解消)/地球にやさしいエコライフ(自転車でエコな移動を)/悠々在宅介護術【住まい環境①】(「手すり設置」「段差解消」にはどんな注意が必要?)/最近気になるMONO(新米をおいしく時短で炊くグッズ)/災害と防災(世界の気象の変化が示す日本への影響)/主治医は自分! 未病発見・予防(声のかすれ)/ナンバープレイス/おいしく食べて健康づくり(高血圧予防)/ビューティー・タイム(唇をふっくら、つやつやに)/シネマ&DVD
ステージ&ミュージアム/短歌/俳句/時事川柳/前新式 座ってできるリンパストレッチ(後ろ歩きストレッチ)


ずいひつ「波音」
こころを聴く47 お下がり。中西 進/カブトムシ。藤原智美/春日山原始林。澤田瞳子/首青鳥が示したひとつの真理。菊地章太/天野さんのこと。秋山信将


カラーグラビア
PEOPLE2019/世界のネコたち(アイスランド)/〝ティー・エイジ流〟カフェ散歩(店主の笑顔に会いに行く。)/シルクロード「仏の道」紀行(高昌故城)/世界紀行(エストニア・タリン)


潮ライブラリー/新聞クリッパー/今月のちょっといい話/クロスワード・パズル/囲碁・将棋/読者の声/編集を終えて

注目記事

●【特別企画】「不寛容の時代」を超えて
「嫌韓報道に潜む『ふつうの人々』の邪悪な衝動」内田樹(神戸女学院大学名誉教授)
【ルポ】「認知症とともに働き、生きる。(下)」奥野修司(ノンフィクション作家) 他5本

11月号の特別企画のテーマは「『不寛容の時代』を超えて」。あおり運転やネットの炎上といった報道に接すると、私たちのまわりにも「不寛容」さがじわりと蔓延していることを肌身で感じる。そこで「自己責任論」や「大人の発達障害」、「愛国心」や「怒りのマネジメント」など多岐にわたるテーマについて、各界の識者に現状認識とその解決策を語っていただいた。
『週刊ポスト』が特集した、「『嫌韓』ではなく『断韓』だ 韓国なんて要らない」という韓国批判記事が大きな問題となったが、その直後に「(出版元の)小学館とは二度と仕事をしない」と発信した内田樹氏は、「嫌韓」について怒りよりも恐怖を感じると語る。政治やマスコミが嫌韓という風潮を煽れば煽るほど、「ふつうの人々」が「今なら何をしても、何を言っても処罰されない」と思い込み、自分の奥にある「攻撃性や暴力性」を発揮して「誰かを思いきり傷つけたい」という邪悪な衝動に突き動かされるようになるからである。「ふつうのおじさん」が「非道な刑吏」に変貌するのが嫌韓言説の本質であると、内田氏は警鐘を鳴らす。
「大義名分」と「処罰されない」という条件のもとで「不寛容」という波に流される、人間の怖ろしい側面を分析し、それに私たちはどう抗していくべきかを問いかける、重厚でエネルギッシュな論稿となっている。
ノンフィクション作家の奥野修司氏の「認知症とともに働き、生きる(下)」では、前号に引き続き、認知症と診断された当事者たちの働く場所や生きがいについての、詳細な現場リポートである。
現在、多くの企業では、認知症という診断がでると、解雇という選択をくだす。しかし、初期の認知症ならば、働くことは可能だ。経済的な不安から、働くことを希望する人は多い。
そのような認知症の当事者や家族の思いを受けて、雇用に条件を付けずに働く場所を作り出したのが、静岡県にある「木公房 いつでもゆめを」。週に2回働いて、デイサービスの利用料を払える程度のお金を手にすることができる。なにより働くことによって、認知症の当事者の方の意識にも良い変化があることがリポートからもわかる。
今後、高齢者が増えていくなかで、認知症政策はますます重要となってくる。当人の意思で、選択肢を増やすことができる社会を作れるようにと、現場の声を政策に繋げている人がいる。奥野氏がさまざまな施設を取材するたびに、関係者から名前が出てくるという公明党の古屋範子衆院議員だ。そこで記事の後半では、古屋氏へのインタビューも収録。決して他人事ではない認知症のテーマ。当事者や家族の思いを大切にしながら、私たち自身がどのような社会を模索していくべきかを考えさせるルポルタージュである。

 


巻頭企画】
「ポピュリズム政治がもたらす危機」三浦瑠麗(国際政治学者)

〝ポピュリズム〟(大衆迎合主義)という言葉をよく耳にするようになった。たとえばアメリカでは、白人中産階級を票田とし、彼らに対する経済的な分配を行おうとするトランプ氏が台頭した。欧州各国でも、「大衆」である中産階級の利益を守り、移民排斥を唱える勢力が、大きな存在感を発揮するようになった。
ポピュリズム政治に票が入る理由は、現状に対する不満を打開したいという「大衆」の欲望の結果でもある。現在の政治への不信感や反エスタブリッシュ感情が、大胆な変革を主張する政治家や新興政党への期待につながり、票が集まっていく。既存政党の左右の違いや保守・リベラルを超えた動きが生まれ、極端な政策に傾いていく危険性がある。
しかし三浦氏は、「ポピュリズム政治家が次々と出てきては改革を実行できず、それが繰り返されることで、社会はそれまで大切にしてきた価値観を捨て始めます。アメリカが自ら主導してきたリベラルな国際秩序や自由貿易制度にダメージを加えているように、人々は良識よりも赤裸々に物事を言う候補を好むようになってしまうのです」と喝破する。
日本も例外ではない。三浦氏のシンクタンクの調査によると、日本人は反エスタブリッシュ感情が高く、破壊願望もある程度存在することがわかった。ただ欧米各国に比べると分断の原因は安保や憲法が中心なので、比較的安定しているだけなのだ。ひとたび反エスタブリッシュメント感情に火がつけば、耳当たりのよい政策をうち出す政治家が台頭しないとも限らない。しかも日本特有の現象として注意しなければならないのは「ゆるいポピュリズム」だという。
こうした現状を少しでも抑えていくには、小さな論点でも大衆の改革期待に応えていくべきだと、三浦氏は言う。とくに公明党はそうした声を国政まで届けるシステムを持っており、今後は国民政党として主体的に人々の変革期待に応えていってほしいと要望を寄せている。

 


【人間探訪】
水木一郎――デビュー半世紀を越えても〝青春〟真っ只中の「アニソンの帝王」

「ゼ―ット!!」の雄たけびで知られる、アニメソングの帝王、水木一郎さん。昨年デビュー50周年を迎え、持ち歌は1200曲を超える。今では、日本のアニメ、アニメソングといえば、世界でも大きな影響力を持っているが、水木さんがデビューした当初は、「まんがの歌」と呼ばれ、なりたいと思う人は少なかったという。
幼少期からジャズを子守唄代わりにして育ち、16歳の時、歌手オーディションでグランプリに輝く。しかしその後はヒット曲にめぐまれず、アニメの主題歌を歌うことに。「水木くんは歌がうまいのに、なんでまんがの歌なんか歌ってるの?」という周りの視線もはねのけ、いまや押しも押されもせぬ、アニソン界の帝王となった。現在では、ネットのフリー百科事典「ウィキペディア」において、現存する日本人の中で、最多の90言語で水木さんの項目が立てられるほど、世界的に有名な日本人となっている。
「アニソンを通じて多くの人たち、とくに子どもたちに勇気を与えるのが僕の仕事で、だからこそ引退できないし、衰えた声になんかなれないと思うんです」と、力強く語る水木さん。様々なヒーローと一心同体になって歌い続けてきた「波乱万唱」の人生を、心ゆくまでご堪能いただきたい。

 


【特別インタビュー】
「ビル・エモットが語る日本再興のカギ」多賀幹子(ジャーナリスト)

日本のバブル崩壊を予言した著書『日はまた沈む』で著名な国際ジャーナリストのビル・エモット氏は、知日派、アジア通としても知られており、今年7月にイギリスのジャパン・ソサエティー新会長に就任した。そんな彼は、『日本の未来は女性が決める!』を本年6月に刊行。その執筆の経緯やEU離脱に揺れる本国イギリスのゆくえについて、ジャーナリストの多賀幹子氏がイギリスに飛び、緊急インタビューを行った。
エモット氏は、1980年から、イギリスの週刊誌『エコノミスト』に勤務し、東京支局長として3年間、日本にも滞在している。本書の中で、日本では多くの取材をしてきたが、その中に女性はほとんどいなかったと述懐する。それは日本社会において、女性が活躍する場が限られていたからだという。しかし近年になって変化の兆しが見えてきたため、22人の女性にインタビューをし、今回の上梓へとつながった。
また著書の中でエモット氏は、「正規雇用と非正規雇用の差を低減すること」「女子大学の撤廃」など9つの提言を紹介している。それは、「失われた20年」の最大の要因は、日本社会が人間という資本の活用や、創造性、生産性を失ったからであり、今こそ女性を中心に雇用や収入、人的資源の価値を高めるべきだと訴える。私たちにとって示唆に富んだ提言になるだろう。
つづいて話題はイギリスのEU離脱をめぐる政治の動きに移る。ジョンソン首相の誕生は、保守党の「ファイナル・ギャンブル」であり、「ポリティカル・クライシス」(政治的な危機)であると、エモット氏は述べる。ジョンソン首相は、EU側との「合意なき離脱」につき進もうとするが、もし合意なき離脱が成立すれば、イギリス国内での医療品不足や、食料品不足などが起き、国民の生活に大きな影響を与える危険性が高いと警告する。また、連合を組むスコットランドやウェールズ、北アイルランドが次々と独立を果たそうとする「最悪のシナリオ」も提示している。
最後にエモット氏は、日本の読者に向けて、「離脱しても、孤立を願っているわけではありません。この先もこれまでのように国際的な立場を保ち、世界に広く開かれたイギリスであり続けたい気持ちは強いのです」と述べた。
エモット氏の未来を見据える卓越した視点を通して、日本とイギリスの近未来を考える一助となれば幸いである。

定期購読
月刊「潮」の定期購読をご希望の方はこちらからお申し込みいただけます。