呉智英(評論家)「解説」より
「ブッダ」は社会派作品ではない。釈迦という仏教の開祖の手塚なりの伝記なのだ。青年誌で社会派作品に活路を開こうとしている時、少年誌で同時に冒険的とも言える釈迦伝に挑み、雄編に仕立て上げる。手塚の力量が抜きん出たものである証左だろう。
そもそも、釈迦伝を描くということが容易ならぬことなのだ。理由は当然、宗教上の人物だからである。
【第一部】
第1章 バラモン/第2章 浮浪児タッタ/第3章 ブダイ将軍/第4章 告知/第5章 チャプラ/第6章 王杯
ブッダの旅の行程図
解説 呉 智英(評論家)
【第一部】
第1章 バラモン
プロローグとして、バラモンによる差別の発生とバラモンの堕落、人々が新しい教えを待ちのぞんでいることが語られる。
――吹雪の中で行き倒れになった僧を、熊とウサギと狐が発見し、熊は魚を、狐は木の実を僧に与えるが、ウサギは何も持ってくることができなかったので、みずからを火の中に投じて僧に与え、神となって天にのぼった。
アシタの師ゴシャラは、この体験によって悟りをひらいた。
アシタは弟子のナラダッタに、ウサギが自分で身を焼いたナゾがとける偉大な人を探してくるよう命じた。ナラダッタは街へいき、タッタの噂を聞く。
チャプラはおとくいにとどける反物をタッタにとられ、とり返してこなければ母を売ると言われる。チャプラの話を聞いたタッタは、母を助けてやろうといった。
第2章 浮浪児タッタ
タッタはトラにのりうつってチャプラの母を助けた。そこへコーサラ国の兵隊がやってきて、タッタの村は兵隊に焼かれ、タッタの母と姉は焼け死んでしまった。
タッタは将軍ブダイを襲うがとらえられ、ナラダッタはタッタをかばっていっしょに処刑されることになる。
第3章 ブダイ将軍
タッタらが処刑されようとしたとき、イナゴの大群が襲来し、すべてを食い尽くした。チャプラと母はタッタとナラダッタを救い出す。
チャプラはタッタを馬にのりうつらせて、軍隊のところへ行き、ワニに襲われたブダイを助けた。ブダイはチャプラを息子にすると言う。
第4章 告知
カピラヴァストウの城では、スッドーダナ王が出陣の用意をしていた。そこへ敵将のブダイがワニに襲われて重傷を負い、そのうえイナゴの大群が敵軍の兵糧を食べつくしたため撤退したとの知らせがもたらされる。
ふしぎなできごとがつづいていた。スッドーダナ王は、それが王妃のおなかの中の赤ん坊にかかわりがあるように思えてならなかった。
第5章 チャプラ
コーサラ国の王はカピラヴァストゥへの攻撃を中止した。
ブダイは、チャプラがスードラだったことを知る。
チャプラの母とナラダッタ、タッタの三人は、コーサラ国へ向かう。途中、ヘビからタマゴをもらうかわりに、タッタが犠牲となってヘビの口の中に入った。そのとき、ナラダッタはアシタの語った話の意味を悟った。
そこへ一本の矢が飛んできてヘビの頭を射抜いた。
第6章 王杯
矢を射たのはバンダカだった。彼はチャプラと勝負をしに行くところだった。
コーサラ国で弓の試合が行われた。チャプラは試合に勝ち、勇士の称号を与えられ、王杯を手にした。